2017-06

サイトメガロウイルス粒子の抗原

 サイトメガロウイルス(CMV)粒子は、カプシド、テグメント、エンベロープで構成されています。
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 それぞれの構造には抗原となりうるCMVタンパクが存在します。主なものを挙げると下図のようになります。

CMV粒子抗原

1 IgM抗体を誘導しやすい抗原はカプシドとテグメントに存在します(水色)
2 抗原血症検出の標的となるpp65抗原はテグメントに存在(ピンク色)
3 中和反応に関わる抗原はエンベロープに存在しています(黄色)

 IgM抗体を誘導しやすい抗原と抗原血症検出の標的となる抗原はリン酸化タンパク、中和抗体を誘導する抗原は糖タンパクが主体となっています。

サイトメガロウイルス粒子の形態

 サイトメガロウイルス(CMV)粒子(いわゆるビリオン virion)は、ヘルペスウイルス科に特徴的な形態をしています。

1)2本鎖DNAゲノム
2)162個のカプソメア(中空六角柱および五角柱状)で構成されるカプシド
3)宿主の膜構造由来のエンベロープを有する
4)カプシドとエンベロープの間にテグメントを有する

CMV EM

 なお、ビリオン (virion) とは、細胞外におけるウイルスの状態で、完全な粒子構造を持ち、 感染性を有するウイルス粒子のことです。

CMV研究は共同研究

 human herpesvirus 5 いわゆるヒトサイトメガロウイルス(human cytomegalovirus: HCMV)はヒトのみが宿主です。病態などの研究において HCMVの感染実験に使える実験動物がいません。

 結局、マウスサイトメガロウイルス(murine cytomegalovirus: MCMV)とマウスの感染系などを、HCMVとヒトとの感染系のモデル実験系として利用しています。

 しかし、HCMVとMCMVでは様々な点が異なります。例えば・・・
1) HCMVとMCMVではゲノム構造が異なる。
2) HCMVは経胎盤感染するが、MCMVは経胎盤感染しない。
3) HCMVは抗アルファヘルペスウイルス薬のアシクロビル、バラシクロビルに非感受性だが、MCMVは感受性がある(MCMVはアシクロビル、バラシクロビルで増殖が抑制される)。

 ヒトにのみ感染するHCMVの病原性の研究は、感染者・感染症患者を研究対象にする必要があります。そのためにも基礎研究(ウイルス学)と臨床研究との共同研究が不可欠です。

分担研究

 厚生労働省科学研究費補助金の基盤研究事業として、先天性サイトメガロウイルス (CMV) 感染症の研究の成果を公開しています。本研究所も分担研究施設として参加しています。

CCMV logo

アドレスは http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/ です。

初めてサイトメガロウイルス検査を担当した時(2)

 杉本裕弥君は2月10日頃までにはサイトメガロウイルス (CMV) 肺炎の危機を乗り越え、3月末には一時的に一般病棟に移ることができました。

Yuya Sugimoto

 6月になると京都大学と信州大学で国内2、3、4例目の生体肝移植が開始されました。

 その後も定期的に裕弥君のCMV検査を実施していて、CMV感染症の再発を認めることはありませんでした。しかし、杉本裕弥君の状態がだんだん悪くなっているであろうことは検体の状態から予想できました。

 1990年8月24日 (術後285日目) 移植片拒絶反応等による多臓器不全で杉本裕弥君は亡くなりました。

 残念でたまりませんでした。でも、もし1月の時点でCMV肺炎が原因で裕弥君が亡くなっていたら、2例目、3例目と続く生体肝移植は実施されなかっただろう。迅速で的確なCMV感染症診断とCMV発症予防法の確立が必要なのだと考えることにしました。

 私のCMV感染症の臨床ウイルス学的研究はこのようにして始まりました。

初めてサイトメガロウイルス検査を担当した時(1)

 1990年当時、宮崎医科大学(現:宮崎大学医学部)微生物学講座の南嶋洋一教授の下でサイトメガロウイルス (CMV)の迅速診断法の研究を行っていました。

 1990年1月30日の午後に南嶋教授から『島根医科大学から空輸で検体が送られてくるので、大至急でCMV検査の準備をしておくように。』と命じられました。

 患者さんの名前は杉本裕弥君。前年 (1989年) 11月13日に先天性胆道閉鎖症のため、日本で最初の生体肝移植を受けた満1歳の男の子です。
 1月20日頃から次第に呼吸状態が悪くなっており、CMV感染症 (CMV肺炎) が疑われるということで、島根医大第二外科(当時)の永末直文先生からCMV検査の依頼がありました。これが私にとって最初の臨床検体を用いたCMV診断となりました。

 宮崎空港に検体が到着して3時間後にはCMV抗原陽性細胞を検出できました。また、検体上清からCMVの分離陽性も確認できました。南嶋先生はすぐに永末先生に結果を報告し、裕弥君への抗CMV薬のガンシクロビル(当時未承認薬)投与が開始されました。

CMV infected cells

CMV細胞質内封入体の特徴:抗体反応での注意点

 サイトメガロウイルス(CMV)感染細胞に細胞質内封入体を観察できることがあります(過去記事あり CMV感染細胞の封入体図)。細胞質内封入体ではCMVタンパクが合成されていますが、その中に IgGのFc受容体機能を示すものがあります。

 抗体の構造については、「免疫を詳しく見る|バイオのはなし|中外製薬」を参照してください。IgG抗体はFabとFcの部位から構成され、Fabで抗原と結合し、Fcで白血球等に結合します。

 CMVの細胞内封入体にはIgGのFc受容体が存在するようになります。したがって、本来の抗CMV抗体とは無関係なIgGが非特異的に結合し、偽陽性反応性が生ずることがあります。

Fc receptor

 標識抗体を用いる抗CMV抗体価の測定においては、このような非特異的反応が起こりうることを留意しておかねばなりません。そのためにも、抗体が標的とするCMV抗原の特定は非常に重要です。

CMV感染細胞の封入体

 細胞変性効果 (CPE) は感染細胞を染色しなくても観察できます。ではサイトメガロウイルス(CMV)感染細胞を染色してみたら、どのようにみえるのでしょうか。
 下図は CMV 感染細胞をヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)したものです。(通常、ヘマトキシリンは塩基性色素で核やリボソームが密集した部位、エオジンは酸性色素で細胞質がよく染まります。)

Inclusion Body

 周囲とは染色性が異なっている部分があり、この部位を封入体と言います。
 ヒトヘルペスウイルスの感染細胞は核内に封入体が観察されますが、CMV 感染細胞には核内だけではなく、細胞質にも封入体が認められるのが特徴です。

CMVの細胞変性効果(CPE)

 ウイルスが細胞に感染して増殖すると、感染細胞は円形化したり、細胞融合したり(合胞体化)します。このウイルス増殖に伴う細胞形態の変化を細胞変性効果(cytopathic effect : CPE)といい、光学顕微鏡下で染色することなく容易に観察できます。
 ヒト線維芽細胞にサイトメガロウイルス(CMV)を接種して数日から数週間するとCPE が観察されます。CMV の CPE は特徴的で、円形化、膨化(巨大化)した感染細胞が集簇的に見れます。CPEを呈した細胞は死んで行きます。

CMV CPE

 (抗原や核酸検出による診断確定が必要ですが)CPE が観察されるということは、生きたCMVを分離培養できたことになり、診断的価値は非常に高いです。
 しかし、CMVの CPEの出現を確認するまでに数日~数週間の細胞培養が必要です。CMV感染症の迅速診断には CPE の観察を指標にした CMV の分離培養は適しません。

サイトメガロウイルス(CMV)の名前の由来

 サイトメガロウイルス(cytomegalovirus : CMV)はヘルペスウイルス科のウイルスで、正式な学名は human herpesvirus 5 (HHV-5) です。
 サイトメガロウイルスの名前はギリシャ語の ”cyto- 細胞" "-megalo- 巨大な" の意味から付けられました。感染細胞が巨大化するからです。

 実際にCMVを感染させた細胞を免疫染色してみると(ウイルス抗原を有している細胞は褐色になってます)、最初に感染した細胞が巨大化し、周りの細胞にウイルスが広がりつつあるのがわかります。

CMV infected cells

アウルの目(Owl's eyes)

 プロフィール欄で『Author : アウルの目』としています。
「アウル」は "owl" 、すなわちフクロウ(梟)のことです。

 私の主な研究対象はサイトメガロウイルスです。聞き慣れないウイルスだと思いますが、先天性 (胎内) 感染症、臓器移植後感染症、HIV感染症などで問題となるウイルスです。
 このサイトメガロウイルスの感染細胞は『フクロウの目』様に見えることがあります。

Owl's Eyes

 まずは、『フクロウの目』と向き合うために、Author を『アウルの目』としました。

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峰松俊夫 (ウイルス学)
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