2017-10

ポリオは根絶できるのか?

 世界保健機構(WHO)が1988年にポリオ根絶計画を採択した時、痘瘡を根絶できたのだから、ポリオもすぐに根絶できるとの意見が大半を占めていました。
 しかし、ウイルス学関係者の中に『根絶までにはかなりの時間を要するであろう』と予想した研究者も多くいました。

 そもそも、痘瘡が根絶できた理由は、痘瘡ワクチンの効果が高かった上に、以下の条件がそろっていたからと考えられています。

1)痘瘡ウイルスはヒトのみに感染する。
2)感染したら必ず発症する。
3)急性感染(一過性感染)となり、持続感染しない。
4)痘瘡ウイルスの抗原性は単一である。

 では、ポリオの場合はどうかというと・・・
1)ポリオウイルスはヒトだけでなくチンパンジーなどの霊長類に感染する。実際、ポリオ不活化ワクチンの製造にはミドリザルの細胞が使用されている。
2)ポリオウイルスの顕性感染率は1%にも満たない。すなわち、ポリオ患者が1人いることは、その背景に100人以上の感染者が存在していると計算される。
3)ポリオウイルス野生株を長期排泄する持続感染例が確認されている。
4)ポリオウイルス遺伝子はRNAである。ポリオウイルスにおいて感染性や病原性を規定する遺伝子に変異が生ずる確率は痘瘡ウイルス(DNAウイルス)のそれと比べて格段に高い。

 このように、痘瘡ウイルスとポリオウイルスとでは、宿主域、感染・発症様式、遺伝子変異率に大きな違いがあります。なので、ポリオ根絶の困難さを予想した研究者も多かったわけです。

 痘瘡根絶宣言が出された翌年(1981年)、ポリオ生ワクチン開発者の Sabin 博士が日本でセミナーを行ないました。そこでポリオを最もよく知る Sabin 博士は『痘瘡(天然痘)は根絶されました。しかし、ポリオを根絶することは不可能です。ポリオという病気、ウイルスの性状、ワクチンの特徴を熟知したうえでの結論です。ただ、ポリオを制御することは可能でしょう。』と語りました。
 現時点で博士の予想は適中しており、まだポリオは根絶されていません。Sabin 博士の予想を覆せるのは何時になるでしょうか。その時が遠くないことを祈るしかありません。
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