2013-05

風しんウイルスー胎児検体の検査の時期

 最近、先天性風しん症候群に関するウイルスの検査の依頼が増えてきました。現在の風しんの流行の影響を感じています。

  先日、サイトメガロウイルス(CMV)の羊水検査時期を記載したところ、『風しんウイルスではどうなの?』とのご質問をいただきました。

 そこで、風しんウイルスの感染動態を簡単に作図しました。

風しんウイルス胎児感染

 風しんウイルスが母体に感染してから、母体がウイルス血症になるまで1週間、母体に発疹等の典型的な症状が出現するまで2週間かかります。母体が発症した時点では、まだ胎盤絨毛に風しんウイルス核酸は検出されません。
 胎盤絨毛に風しんウイルス核酸が検出されるようになるのは、母体の感染から3週間以上経ってから、母体の発症(発疹出現)から約10日後です。
 さらに、胎児の各組織で風しんウイルス核酸が検出されるのは母体の感染から40日後、母体の発症から約4週間後です。

 私の経験や海外文献からは、母体の感染から6週間以降(発症から4週間以降)に羊水を採取し、それを検体とした感度は約90%くらいです。しかし、母体の発症から早期に羊水検査を実施すると、ウイルス検出率は低くなります。
 日本での研究において、羊水の感度はそれほど高くないと言われることがあります。ひょっとしたら、日本では早期に羊水検査を実施する傾向があるのかもしれません。

 なお、先天性風しん症候群の検査において、海外文献で推奨される羊水検体の検査時期は、
母体の風しん発症から・・・
  少なくとも8週間後、かつ妊娠15週以降
  必要であれば、妊娠22〜23週に再検査

となっています。

 風しんに罹患した妊婦さんおよび医療関係者は、胎児が感染しているかをすぐにでも知りたいことでしょう。しかし、(母体保護法を考慮したうえで)検査に適した時期まで、あるいは検査として待てる時期まで待ってください。

検査する立場側からのお願いでした。

風しんの経過

 全国に流行が拡大しつつある風しん。その予防対策としてワクチンの接種が推奨されています。

 風しんウイルスが感染してから、体内で起こる状態を図にまとめてみました。

 感染してから約1週間でウイルス血症となり、2〜3週間後に発熱や発疹等の特徴的な症状が出現します。リンパ節腫脹は発疹出現の1週間ほど前から認められます。耳介後部や頸部のリンパ節の腫脹が目立ちます。

風しんの経過

 さて、問題にしたいのは風しんウイルスの排出時期のことです。

 風しんウイルスは飛沫感染しますので、咽頭からウイルスが排出される時期は感染源となります。咽頭からウイルス排出が開始される時期は、ウイルス血症になる時期とほぼ同じです。

 図から分かるように、風しんの特徴である発疹が出現する1週間ほど前から、すでにウイルスは排出されているのです。しかも、この時期の感染者はまだ発熱しておらず、行動制限を認めません。

 すなわち、発疹が出現した患者さんを隔離したとしても、感染源対策としてはすでに手遅れで、風しんウイルスの感染対策にはならないのです。

 発症防止(ウイルス血症防止)を目的として、風しんワクチン接種が重要視されるのは、このような理由からです。

破壊活動?!

 昨年末まで研究所があった外来・研究棟の解体作業が始まりました。
 この場所に新しく、福利厚生・一般内科病棟が建築される予定です。

旧施設


免疫グロブリン IgGのサブクラス

 免疫グロブリンには IgG, IgA, IgM, IgD, IgE がありますが、胎盤を通過できる免疫グロブリンは IgGのみです。

 IgGは4つのサブクラスに分けられ、IgG1, IgG2, IgG3, IgG4 に分けられます。

 IgG1はIgG全体の65%くらい、IgG2は25%くらい、IgG3とIgG4はそれぞれ5%ほどです。

 抗原のタイプによって反応するIgGサブクラスが異なります。
IgG1とIgG3はタンパク抗原に反応しやすく、
IgG2は多糖抗原に反応しやすく、
IgG4はアレルゲンに反応しやすいです。

つまり、IgG1とIgG3はウイルス感染症に、IgG2は細菌感染症に関連が深い免疫グロブリンです。

 IgG1やIgG3の濃度をあげられれば、効果的なウイルス感染症の治療が可能かもしれないと考えたことがあるのですが・・・ウイルス感染の免疫系は複雑で、抗体だけを用いた感染予防実験はうまくいきませんでした。

 IgG1とIgG3は胎盤を通過しやすい(能動輸送される)免疫グロブリンです。機会があったら、先天性感染を視野において再度研究してみたいと考えています。

微生物の大きさ

 微生物学が対象とする生物は、細菌、真菌、原虫、ウイルスです(最近はプリオンも入ってきてますが・・)。

 その昔、医学生だった頃に『微生物は肉眼で観察できないほど小さな生物』だと習いました。微生物の微は100万分の1の意味です。

 では実際にどれくらいの大きさだと肉眼で観察が難しくなるのか。赤血球は直径8μmです。出血した時に、『何個の赤血球が出て行った!』と肉眼で数えることはできませんよね。

 シャープペンシル(普通芯の太さ0.5mm) をペン先側から見て、芯を10等分してみてください。10等分はかなり難しいと感じるでしょう。
 そうです。シャープペンシルの芯の太さの1/10の0.05mm、すなわち50μmが肉眼で観察できる大きさの限界です。

シャープペンシル

 微生物に含まれる細菌、真菌、原虫、ウイルスは肉眼で観察できない生物。その大きさは50μm未満、つまりシャープペンシルの芯の太さの1/10未満だと考えれば、微生物の大きさが想像しやすいです。

# カビやキノコは真菌の仲間です。『微生物といいつつ真菌(カビ、キノコ)は肉眼で見えるじゃないか!』と疑問を感じられるかもしれません。
 真菌の酵母は肉眼で観察できません。しかし、カビやキノコの形態の基本構造である菌糸は多核細胞体となっています。後日、真菌の多核細胞体構造についても記載したいと思います。

先天性サイトメガロウイルス感染における羊水検査の時期

 前項で使った図を再掲します。

CMV-胎盤

 サイトメガロウイルス(CMV)が胎児に感染すると、後に胎児はウイルスを羊水に排出するようになります。羊水を採取してウイルス学的にCMVを検出できれば胎児感染が判明することになります。

 では、いつ羊水検査をするか・・・『今でしょ。』というわけには行きません。CMV感染経過と胎児の尿排泄能を考慮する必要があります。

1)重症のCMV感染児は妊娠初期(妊娠第12週まで)の感染に多い
2)母体の感染から羊水中にCMVが検出されるまでに6週〜9週かかる
3)胎児の尿排泄機構は妊娠第20〜21週頃に完成する

 以上のことから、先天性CMV感染における羊水検査は妊娠第21週〜23週くらいに実施が良いと考えられます。

 これより前の時期でも羊水にCMVが検出されることはあります。しかし、羊水採取時期が早すぎると偽陰性になりうることも考えておくべきです。

サイトメガロウイルスが胎盤を通過する機序

 久しぶりのサイトメガロウイルス(CMV)関連の記事です。

 以前、哺乳類の胎盤形成にはウイルスが関与していることを書きました。内在性レトロウイルス(Endogenous Retrovirus : ERV)の働きにより、胎盤では細胞が融合し、合胞体栄養膜細胞が形成されます。
 合胞体栄養膜細胞は、母親の免疫担当細胞を胎児側に侵入させることなく、栄養分や液性免疫物質(抗体)等を胎児側に通過させる役割をもっています。

 しかし、CMVは胎盤の合胞体栄養膜細胞層を通過して、胎児に感染します。そこには驚きのメカニズムが存在しています。

CMV-胎盤


 合胞体栄養膜細胞は母体の免疫グロブリン IgGを胎児側へ能動輸送しています。その合胞体栄養膜細胞の能動輸送のシステムによって、IgG抗体と結合したCMVが胎児側へ運ばれるのです。(図の青矢印の部分

 さらに、CMVが胎児組織に感染するには抗体の抗原結合力(Avidity)が関与していると考えられています。

 IgG中和抗体とCMVとがしっかり結合していれば問題ありません。
 しかし、抗原(CMV)と結合力が弱い低Avidity の IgG抗体だと、合胞体栄養膜細胞層を通過した後に、CMVがIgG抗体から外れてしまい、CMVが栄養膜幹細胞に感染します。栄養膜幹細胞で増殖したCMVは臍帯を通り、胎児に感染が波及します。
 結局、低Avidity IgG抗体の存在がCMVの胎児への感染を助長してしまうというわけです。

  感染して間もない時期(初感染)では、母体血清には低Avidity IgG抗体が存在しています。母体がCMV初感染の場合に、胎児へのCMV感染の確率が高くなるのはこのような理由からです。

海馬

 前項は海の中のウイルスの話でした。海つながりでタツノオトシゴ関連の話を書きます。

 タツノオトシゴを英語で書くと Seahorse、直訳すると海馬です。
 医学的に海馬といえば、大脳辺縁系の一部で、記憶や空間学習に関わる脳器官を指します。(ちなみに脳構造の海馬の英名は Hippocampus です。)

HippocampusFrontal.gif
           ↑海馬(Hippocampus)の場所
(http://brainmind.com/BrainOverview.htmlより)


 なぜ、脳の構造名として海馬、いわゆるタツノオトシゴなのか。海馬を取り出してみると分かります。

Hippocampus_and_seahorse_cropped.jpg
↑海馬とタツノオトシゴ 形そっくり!
(http://en.wikipedia.org/wiki/Hippocampus より)

 長い間、中枢神経系は一度傷害されると再生しないと考えられてきました。しかし、近年の研究により海馬には神経幹細胞が存在することが判明してます。
 海馬を中心とした神経刺激により、この神経幹細胞が活性化し、新たに神経細胞が増殖していくのです。そのため、運動や感覚刺激、リハビリテーション継続の重要性が問われています。

 日常生活の中にも何かに感動して、神経新生を促したいものです。

海の中のウイルス量(Nature総説から)

 2005年のNatureに掲載された "Review Viruses in the sea" という総説を読んでみました。
膨大な量のウイルスが地球上に存在していることがわかります。

 以下、総説の内容からです。
(なお、10^6 と記載してあるのは累乗を表しています。10^6 は 10の6乗(100万)という意味です。)

1) 海の中にウイルスは、深海で 300万個/mL 、沿岸部では 1億個/mL のウイルスが含まれると想定される。海水平均で 30億個/L のウイルスが含まれると仮定できる。

2) 地球上の海洋の容量は 1.3 x 10^21 L とされる。

3) 1)および2)より
海全体で 4 x 10^30 個のウイルスが含まれている。

4) ウイルス一個の大きさを 100 nm、含まれている炭素を 0.2 fg (フェトグラム、1fgは 1/10^15g; 1μgの10億分1)と仮定する。

5) 3) および 4) から
海全体のウイルスに含まれる炭素は 2億トン(シロナガスクジラ 7500万頭分)
ウイルスを全部一列につなげると 1000万光年の長さに達する。


インフルエンザウイルスが感染するための条件(鳥インフルエンザウイルスがヒトで流行しにくい理由)

 インフルエンザウイルスが宿主に感染するためには最低2つの条件が必要です。
 ひとつは前項・前々項で挙げました。インフルエンザウイルスが宿主の酵素によってヘマグルチニンが開裂して活性化することです。
 もうひとつはヘマグルチニンの開裂部位に対応するウイルスレセプター(受容体)が宿主細胞にあるか否かです。

インフル感染条件

 細胞におけるインフルエンザウイルスの受容体は細胞膜に存在する糖タンパク質のシアル酸です。(シアル酸とはノイラミン酸 (neuraminic acid) のアミノ基やヒドロキシ基が置換された物質を総称です。)

 ヒトインフルエンザウイルスのヘマグルチニンはガラクトースとα2-6結合したシアル酸と高い親和性を持っています。一方、鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンはα2-3結合したシアル酸と結合します。
 ヒトの上気道にはα2-6結合シアル酸が存在しており、鳥の消化管にはα2-3結合シアル酸が存在しています。ヒトインフルエンザウイルスがヒトの上気道に感染するのは、ヒト型レセプターとのシアル酸結合様式が関与していることになります。

zu2a.gif


zu2b.gif

↑科学技術振興機構(JST) のホームページより


 これらシアル酸受容体の結合様式のため、鳥インフルエンザウイルスは容易にはヒトに感染しません。

 しかし、ヒトの下気道(肺)にはα2-3結合シアル酸が存在することが証明されています。
 よって、鳥インフルエンザウイルス感染源と濃厚な接触、例えばウイルスが下気道(肺)に直接到達するような接触があれば、ヒトが鳥インフルエンザウイルスに感染することがあり得る訳です。ただし、この場合にはヒトからヒトへの流行は起こりにくいです。

 今後、鳥インフルエンザウイルスにおいてα2-6結合(ヒト型)シアル酸への結合能が上昇するヘマグチニン遺伝子変異が起こる可能性があります。こちらの場合は、ヒトからヒトへの流行が起こり得ることも考慮すべきです。
 その時を想定した社会的な対応策の検討が急がれています。


ヒト型のインフルエンザウイルスは直接腸管症状を起こさない

 前項のタンパク分解酵素によるウイルスの活性化の話が分かりにくかったようです。説明図(出典が今となっては不明です。ごめんなさい。)があります。

Proteolytic activation

 インフルエンザウイルスの表面にはヘマグルチニン(hemagglutinin)があります。ヒトの細胞にウイルスが吸着するためには、ヘマグルチニンの内部にある融合ペプチド(図ではMembrane Fusion Domain となっています)が表出していなければなりません。

 そのためにはヘマグルチニンがヒトの酵素(図ではProtease; ハサミ)で開裂される必要があります。ヒトの酵素が働いて、融合ペプチドを表出したインフルエンザウイルスが感染性を持つことになるのです。

 前項では、開裂させられる酵素が体内のどこに分布しているかで、ウイルスの感染部位が決まっているという内容でした。

 インフルエンザ治療薬としてザナミビル(リレンザ)、ラニナビル(イナビル)といった吸入薬が使えるのは、流行しているインフンルエンザウイルス(ヒト型)が気道の酵素で活性化し、他の臓器に存在する酵素では活性化しないためです。
 ということで、少なくとも現在までに流行したインフルエンザウイルスは腸管で増殖することはありません。

 『今年のインフルエンザはお腹にくるからねぇ。』と言われるのをしばしば耳にします。本当はインフルエンザウイルスの直接的な影響によって消化器症状は起こっていないのです。

いわゆる弱毒株のインフルエンザウイルスと強毒株の麻しんウイルス

 インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス科に、麻しんウイルスはパラミクソウイルス科に属するウイルスです。異なるウイルス科に属していますが、感染において似ている部分があります。

 インフルエンザウイルスではヘマグルチニン(hemagglutinin : HA)、麻しんウイルスではFタンパクというタンパクがウイルスの表面にあります。
 これらのタンパクが宿主のタンパク分解酵素で開裂すると、ウイルスが活性型になり(細胞膜に融合するペプチド領域が出現する)、細胞に感染できるようになります。

 すなわち、インフルエンザウイルスや麻しんウイルスは、どこの組織に存在するタンパク分解酵素でタンパク開裂するか(活性化するか)で感染部位が決まってきます。

 鳥インフルエンザウイルス強毒株は全身感染します。この理由はヘマグルチンが普遍的な細胞に存在するタンパク分解酵素(フリン等)で開裂するからです。鳥インフルエンザウイルス強毒株は腸管でも増殖するため、鳥の糞が感染源となることもあります。

 現在までにヒトで流行しているインフルエンザウイルスはすべて気道で増殖するものでした。これはヘマグルチニンを開裂させる酵素(トリプシン様酵素)が気道のみに存在しているからです(鳥インフルエンザウイルスの分類に照らせば、ヒトインフルエンザウイルスは弱毒株にあたります)。

 麻しんウイルスやムンプスウイルスは、全身の種々の臓器に存在するタンパク分解酵素でFタンパクが開裂します。これらのウイルスが全身感染を起こすのは、全身の細胞にあるタンパク分解酵素がウイルスの活性化に関わっているからです。

開裂部位

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