2013-04

回文:パリンドローム

 旧約聖書のアダムとイヴのクイズ。
アダムがイヴに最初にかけた(英語の)言葉は?

 答えは "Madam, I'm Adam."(ご婦人、私はアダムです。)

 Madam の語源は、Ma= my と Dame=Lady です。アダムの骨からイヴが作られたという説がありますので、アダムがイヴに Madam(My Lady)と声掛けしたのも納得できます。

 さて、"Madam, I'm Adam." これを後ろから読んでみてください。
 MADAM IM ADAM とすれば分かり易いでしょうか。

 そう、Madam, I'm Adam. は、「新聞紙(しんぶんし)」や 「竹薮焼けた(たけやぶやけた)」と同様に回文 (パリンドローム) なのです。

 さて、分子生物学においてもパリンドローム構造が大切です。
  (2本鎖構造の) DNAなどで一方の鎖の5′側から読んだ場合と、もう一方の鎖 (相補鎖) を5′側から読んだ場合に塩基配列が同じになる部位の構造をパリンドローム構造と言います。

(6塩基パリンドローム構造の例)
5'-GATATC-3'
3'-CTATAG-5'


 遺伝子組み換え技術などでよく利用する制限酵素は、このようなDNAのパリンドローム構造の部位を認識してDNAを切断します。

ウイルス血症を起こすウイルス

 ウイルス血症を起こすウイルスは多々あります。しかし、ウイルスの存在部位が血球なのか血漿中(血清中)なのか、ウイルス毎にさまざまです。

 自分が検出を試みたウイルス等を挙げてみました。血液成分の何を調べたら、効率よくウイルスを検出できるかを表しています。

viremia.jpg


麻しんワクチン接種の目的は麻しん発症防止だけではない

 麻しんウイルスが原因とされる疾患に亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis ; SSPE) があります。SSPEは麻しんウイルス感染後、数年におよぶ長い潜伏期の後に発症し、数ヶ月から数年の経過で(亜急性に)脳炎が進行する、予後が極めて不良な疾患です。 

 SSPEは1歳未満で麻しんに罹患した場合や、免疫が低下した宿主に(ステロイドホルモン、免疫抑制剤、抗がん剤などを長期に使用しているような状態)発症が多いのが特徴です。また、男児に多く、多くが学童期に発症します。

 潜伏期間が非常に長く、遅発性感染症のひとつと考えられます。

 SSPEの原因となる麻しんウイルスは、ウイルスMタンパク質をコードするM遺伝子に変異が生じ、通常のMタンパク機能が欠失しています。

 SSPEの発症に麻疹ワクチンが関連しているという証拠は現時点でありません。それどころか、麻疹ワクチン接種率の上昇により、SSPEの発生率が減ってきています。
 事実、麻しんワクチン接種の普及により、自然麻しん患者が見られなくなった欧米諸国において、SSPEはほとんど報告されなくなりました。
  麻しんワクチンを接種して、Mタンパク(抗原)に対する免疫を確実に獲得することで、SSPEの発症を抑制することができるためと考える研究者もいます。

 麻しんワクチンは『麻しん』と『亜急性硬化性全脳炎 (SSPE)』の2つの疾病を予防するワクチンといえるでしょう。

伝染性ウイルス疾患の広がりやすさ

 疾病の流行しやすさの指標に、Basic Reproduction Number (R0) があります。
 『集団が免疫を獲得していないとして、一人の患者がいた場合に何人に伝播しうるか。』という研究上の想定数値です。

 ウイルス感染症を例にとってみると (下図) 、風しんウイルスはインフルエンザウイルスよりも3倍強も広がりやすい事がわかります。
 インフルエンザには治療薬があります。治療薬がない風しんでは予防接種が根幹対策です。

R0.jpg
クリックで拡大

 集団免疫からいえば麻しんに対する予防接種は最重要だといえます。

 MR(麻しん・風しん)ワクチンの接種をお勧めします!

風しん予防接種でのジレンマ

 風しん流行において男性への予防接種策の重要性は言うまでもありません。事実、現在の流行で罹患患者の多くは男性です。

 しかし、現在、風しん(単独)ワクチンは、メーカーからほとんど入手できない状態になっています(入荷未定です)。MR(麻しん・風しん)ワクチンはまだ入手できていますが、次第に入手困難になってきています。

 なので妊娠可能な女性を優先接種で考えねばならず、そのご主人・ご家族には接種できないジレンマを感じています。

 先天性風疹症候群対策のためにも、最低でも妊娠を考えている女性にはワクチンが行き渡るように生産・流通確保をして欲しいものです。

先天性風しん症候群対策で考慮すべき年齢

1) 昭和37年4月1日以前に出生した男女は風疹ワクチンの集団接種を行っていません。

2) 昭和37年4月2日から昭和54年4月1日生まれの男性は集団接種を行っていません。(女子は中学生の時に集団接種していました。)

3) 昭和54年4月2日から昭和62年10月1日生まれの男女は個別接種となり、医療機関での接種となったため、この期間は男女ともに接種率が激減しています。この世代(25歳〜34歳)の女性は特に要注意です。しかもこの世代は妊娠可能な女性が多く含まれる世代です。

4) 昭和62年10月2日から平成2年4月1日生まれの男女は幼児期に接種する機会がありました。しかし、1回のみ接種だったので抗体値が低値で十分な感染予防効果が認められない方がいます。

5) 平成25年3月末までの5年間は中学1年生と高校3年生相当年令の生徒に無料で風疹ワクチンを接種する制度がありました。しかし、特に高校生の接種率が高くありませんでした。19歳から23歳までの方で風疹抗体価が低値の方が残ってしまったと考えられます。

風しんワクチン接種状況


ちょっと昔話

 前項のアビディティーの測定法を書いている時に思い出したことがあります。

 1999年イギリスのブライトンにおいて、第7回国際サイトメガロウイルス ワークショップが開催されました。

 このワークショップにおいて、アビディティー・インデックス(AI)を利用したサイトメガロウイルス(CMV)感染妊婦の管理法がポスター発表されていました。

 発表ポスターの前で、上司の南嶋洋一先生や川名尚先生(現帝京平成看護短期大学学長)から、『妊婦の血清の抗CMV AI 測定を日本で実施してみたい、いや、するべきだ。』と声をかけられました。
 南嶋先生や川名先生の言葉が耳に残り、しばらくしてAI測定系の実験を始めました。

ワークショップの帰りは、平井莞二先生(当時 東京医科歯科大学教授)と向かい合わせの席でした。ヘルペスウイルス学の話をしながら、急行電車でロンドンまで戻りました。その時に私と話したことを平井先生は学会関係誌に記録してくださいました。

 それから、数ヶ月後に平井先生は東京医科歯科大学の教授室で急逝されました。ちょうど、私がAI測定系を臨床的に応用できるようになった頃でした。

抗体のアビディティー(Avidity)(3) 測定法

 抗体のアビディティーを測定する方法にはいくつかの方法がありますが、簡単な方法は弱いタンパク変性剤を用いる方法です。

 抗体はタンパク質です。タンパク変性剤で処理すると、アビディティーが弱い抗体はその処理で、抗原と外れます。しかし、強いアビディティーをもった抗体は弱いタンパク変性処理でも抗原との結合力を保ちます。

 最も良く使われているタンパク変性剤として尿素があります。尿素は抗原抗体結合のうち、水素結合を切断します。

 アビディティーを測定する方法として、他に抗ヒトIgG抗体を使う方法などもあります。

 詳しくは、厚生労働省科学研究費のホームページをごらんください。

先天性風疹症候群の診断で

 当研究所宛に風疹ウイルス核酸検査の依頼が増えてきました。

  風疹で問題になるのは先天性感染症(TORCH 症候群)なのですが、商用検査メーカーは胎児検体での診断を行っていません。

 全国の2次相談窓口の産科・周産期センターからなら国立感染症研究所において、風疹核酸診断が実施できているようですが、それ以外の施設からの検査依頼は難しいようです。(検査数が多いと検査精度が落ちるのを懸念してのことだと思われます)。
  現在、産婦人科学会/国立感染症研究所から公表されている風疹2次相談医療施設は全国で15施設しかありません。

  2004年に風疹が流行した後も、先天性風疹症候群に関して医療・検査施設の整備が遅れていたのが、胎児診断を困難にしている原因のひとつかと思います。

 でも、先天性感染症の診断を希望する妊婦さんや医療施設はたくさんあります。妊婦さんがわざわざ二次相談窓口の病院まで診察に行くのも大変なことです。

 今後、倫理的配慮を考慮の上で一次・二次医療機関の見直しを行って、相談施設の整備を急いだ方がいいでしょう。

抗体のアビディティー(Avidity)(2)

 抗原と抗体の結合力の総和、すなわちAvidity は最初の抗原刺激から時間が経過するにしたがって強くなっていきます。
 つまり、時間が経過するにしたがって抗原と強く確実に結合する抗体が作られていきます。

感染経過とAvidity Index


 言い換えれば、Avidity の強さを測定すると抗原刺激(感染)からの時間の推測が可能だということです。
抗体のAvidityが弱ければ初感染、強ければ既感染であると考えられます。

あれれ?!

 閑話です。

 ウイルスを中国語で書くと『病毒』となるけれど・・・

 私が書いたサイトメガロウイルス母子感染経路の総説が、中国語に訳されて、知らない間に出版されていました。
http://d.wanfangdata.com.cn/Periodical_rbyxjs200108022.aspx
(巨細胞病毒ってタイトルになってるし)

 これって、著作権はどうなっていたんでしょうかねぇ?

抗体のアビディティー(Avidity)(1)

 免疫を獲得するとBリンパ球が抗体を産生し、抗原と結合するようになります。この抗原と抗体の結合は、抗原上のエピトープと抗体上のパラトープとの間で可逆的な結合が起っています。結合にはさまざまな分子間引力が関わっています。主なものは疎水結合、ファンデルワールス力、静電気力、水素結合です。
 (ファンデルワールス力は原子・分子間の凝集力の総称のことです)

抗原ー抗体分子間引力
↑ 免疫学イラストレイテッド(南江堂)より

 一価のエピトープと一価のパラトープとの結合力はアフィニティー(Affinity)と呼びます。抗体の代表格であるIgG抗体はY型をしており、通常は2カ所(二価)のパラトープ(Fabの部位)で結合します。

抗体のFab

 すべての抗体分画は2価以上のパラトープを持っており、抗体全体として、アフィニティーよりもはるかに大きい力で、多価のエピトープを持つ抗原と結合しています。
 このような抗原と抗体との結合力の総和をアビディティーと言います。

ポリオは根絶できるのか?

 世界保健機構(WHO)が1988年にポリオ根絶計画を採択した時、痘瘡を根絶できたのだから、ポリオもすぐに根絶できるとの意見が大半を占めていました。
 しかし、ウイルス学関係者の中に『根絶までにはかなりの時間を要するであろう』と予想した研究者も多くいました。

 そもそも、痘瘡が根絶できた理由は、痘瘡ワクチンの効果が高かった上に、以下の条件がそろっていたからと考えられています。

1)痘瘡ウイルスはヒトのみに感染する。
2)感染したら必ず発症する。
3)急性感染(一過性感染)となり、持続感染しない。
4)痘瘡ウイルスの抗原性は単一である。

 では、ポリオの場合はどうかというと・・・
1)ポリオウイルスはヒトだけでなくチンパンジーなどの霊長類に感染する。実際、ポリオ不活化ワクチンの製造にはミドリザルの細胞が使用されている。
2)ポリオウイルスの顕性感染率は1%にも満たない。すなわち、ポリオ患者が1人いることは、その背景に100人以上の感染者が存在していると計算される。
3)ポリオウイルス野生株を長期排泄する持続感染例が確認されている。
4)ポリオウイルス遺伝子はRNAである。ポリオウイルスにおいて感染性や病原性を規定する遺伝子に変異が生ずる確率は痘瘡ウイルス(DNAウイルス)のそれと比べて格段に高い。

 このように、痘瘡ウイルスとポリオウイルスとでは、宿主域、感染・発症様式、遺伝子変異率に大きな違いがあります。なので、ポリオ根絶の困難さを予想した研究者も多かったわけです。

 痘瘡根絶宣言が出された翌年(1981年)、ポリオ生ワクチン開発者の Sabin 博士が日本でセミナーを行ないました。そこでポリオを最もよく知る Sabin 博士は『痘瘡(天然痘)は根絶されました。しかし、ポリオを根絶することは不可能です。ポリオという病気、ウイルスの性状、ワクチンの特徴を熟知したうえでの結論です。ただ、ポリオを制御することは可能でしょう。』と語りました。
 現時点で博士の予想は適中しており、まだポリオは根絶されていません。Sabin 博士の予想を覆せるのは何時になるでしょうか。その時が遠くないことを祈るしかありません。

ポリオ(急性灰白髄炎)

 痘瘡(天然痘)根絶の次に世界保健機構(WHO)が根絶に乗り出したのはポリオ(急性灰白髄炎)でした。
ポリオとはポリオウイルスの感染によって運動神経障害が起こり、弛緩性麻痺を生じる疾患です。呼吸に関わる神経が障害されると、自発呼吸ができなくなり重篤な症状を呈します。

 下の石碑は紀元前1500年ほど前のものです。中央の男性はポリオにより右足が麻痺・萎縮しています。子供(右端)が自分のような病気にならないように、神様にお供えをしている石碑だとされています。
ポリオ

 ポリオの根絶に関しては、WHOだけでなく、国際ロータリーなどの奉仕団体やユニセフも支援をしています。当初、WHOは西暦2000年のポリオ根絶を目指していました。しかし、戦争、教育、文化の問題もあり、根絶まであと少しの段階で足踏状態となっています。

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