2013-02

アンチセンス抗CMV薬:ホミビルセン

 1998年最初のアンチセンス技術を使った医薬品が米国で認可されました。抗サイトメガロウイルス (CMV) 薬のホミビルセン Fomivirsen です。
 従来の抗CMV化学療法剤がCMV遺伝子の産物である酵素を標的とするCMV DNA合成阻害剤であるのに対して、ホミビルセンはCMV遺伝子の翻訳阻害という全く新しいメカニズムによってその効果を発揮します。

ホミビルセン
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 ホミビルセンは21塩基からなるオリゴヌクレオチド化合物です。その塩基配列は 5'-GCG TTT GCT CTT CTT CTT GCG-3' です。ただし、ホミビルセンは分解されにくいように硫黄がリン酸基部位に入ってます。この塩基配列はCMVの前初期2 ( IE-2 ) 遺伝子から転写されるmRNAと相補的になっています。
 IE-2 mRNAにホミビルセンが結合することにより、いわゆるアンチセンスメカニズムによりCMV IE蛋白の産生が抑制されます。ホミビルセンは既知のヒト遺伝子由来のmRNAとは結合せず、CMVに対してのみ選択毒性が発揮されます。

抗サイトメガロウイルス薬の作用機序

 抗サイトメガロウイルス(CMV)化学療法剤として、ガンシクロビル (Ganciclovir: GCV)、バルガンシクロビル(Valganciclovir: VGCV)、シドホビル (Cidofovir: CDV)、ホスカルネット (Foscarnet: FOS) の4薬が欧米で用いられ、本邦ではGCV、VGCVとFOSの3薬が保険認可されています。これらの抗CMV薬はすべてCMVのDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)阻害作用により効果を発揮します。

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抗CMV薬

 VGCVはGCVにアミノ酸のバリンが結合させて経口吸収率が高められており、吸収後は速やかにGCVに変換されるプロドラッグです。よって、VGCVの作用機序や効能はGCVと同じです。

 GCV (VGCV) と CDV はCMV DNA合成酵素の基質であるデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)と競合的に拮抗することによって、CMV DNAの伸長を阻害します。

 GCVはグアノシンのアナログで、CMVゲノムのUL97遺伝子産物であるホスホトランスフェラーゼ (リン酸基転移酵素) によって1リン酸化され、細胞のリン酸化酵素によって最終的に3リン酸となり、CMVのDNAポリメラーゼ (UL54遺伝子産物) を阻害します。

 CDVはヌクレオチド (シチジル酸) のアナログで既にリン酸基を1個持っています。CDVではホスホトランスフェラーゼを必要とせず、細胞のリン酸化酵素によって2個のリン酸基が付加され、CMVのDNAポリメラーゼを阻害します。

 一方、FOSはピロリン酸のアナログであり、CMV DNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位に直接作用して、その活性を抑制します。

抗ヘルペスウイルス薬

 ヒトヘルペスウイルスは8種類が知られています。
 現行の抗ヘルペスウイルス薬は、アルファヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型および2型、水痘・帯状疱疹ウイルス)とサイトメガロウイルス (CMV) に対する薬剤にほぼ限られます。また、そのほとんどがウイルスDNA合成阻害剤です。

抗ウイルス剤
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表中で
HSV : herpes simplex virus (単純ヘルペスウイルス)
VZV : varicella-zoster virus (水痘・帯状疱疹ウイルス)の略です。

 ただし、抗CMV薬のホミビルセンは、アンチセンスメカニズムでCMVタンパク合成を阻害する翻訳阻害剤です。

感染の経過

 感染を時間経過で分類すると、大まかに次のように分けられます。

1 急性感染
2 持続性感染
   1)慢性感染
   2)遅発性感染(症)
   3)潜伏感染


 急性感染は持続性感染と対をなす感染様式です。つまり非持続性の感染が急性感染となります。
 急性感染と聞くと、急激に発症する感染症と考えがちですが、それは誤りです。急性感染は別名一過性感染とも言います。感染が一過性に終了するからです。

 遅発性感染の発は発症のことです。すなわち数年の長い感染期間を経て、遅れて発症する感染様式です。語尾に (症) と記したのは、必ず感染症となるからです。一度、遅発性感染症が発症してしてしまうと、現在の医学では患者さんを救う事はできません。

 サイトメガロウイルスが含まれるヘルペスウイルス科のウイルスは潜伏感染します。潜伏感染は複雑な感染様式を示します。ヘルペスウイルス科のウイルスが感染したら、体内のどこかにウイルスゲノムは火葬されるまで存在し続けます。

 後日、それぞれの感染様式を説明したいと思います。

感染は感染症ではない

 感染とは微生物が宿主の体内あるいは体表に定着し、増殖している状態のことです。

 ヒトは無菌動物ではありません、何かの微生物が必ず感染しています。実際、腸管には100兆個を超える微生物が感染しています。糞便の乾燥重量の約半分は微生物(主に細菌)の重量です。
 これだけの数の微生物が感染していながら、多くの人々は発症することなく、健康に生活しています。すなわち感染症の状態ではありません。

 感染と感染症は同義語ではありません。感染していることと、感染症は別の観点から考慮すべきです。

ヘルペスウイルスと真核生物

 動物の細胞には核があります。一方、細菌には核がありません。明確な核構造を持つ生物を真核生物(動物、植物、真菌、原虫)、細菌のように核構造を持たない生物を原核生物といいます。
 核があるということは、核膜という膜構造を有するということです。真核生物には細胞膜以外にも、核膜、ミトコンドリア膜、小胞体などの膜構造が存在します。しかし、原核生物には細胞膜以外の膜構造はありません。

 ヘルペスウイルス科のウイルスは、その増殖過程で一度核膜を被って成熟します。ヘルペスウイルス科のウイルスは宿主の核膜が必須であり、真核生物に特有のウイルスということです。

 ヘルペスウイルスは真核生物の出現後に自然界に登場し、それぞれ特定の宿主に感染し、宿主と共存しながら進化してきたと考えられています。

サイトメガロウイルス粒子の抗原

 サイトメガロウイルス(CMV)粒子は、カプシド、テグメント、エンベロープで構成されています。
前記事
 それぞれの構造には抗原となりうるCMVタンパクが存在します。主なものを挙げると下図のようになります。

CMV粒子抗原

1 IgM抗体を誘導しやすい抗原はカプシドとテグメントに存在します(水色)
2 抗原血症検出の標的となるpp65抗原はテグメントに存在(ピンク色)
3 中和反応に関わる抗原はエンベロープに存在しています(黄色)

 IgM抗体を誘導しやすい抗原と抗原血症検出の標的となる抗原はリン酸化タンパク、中和抗体を誘導する抗原は糖タンパクが主体となっています。

サイトメガロウイルス粒子の形態

 サイトメガロウイルス(CMV)粒子(いわゆるビリオン virion)は、ヘルペスウイルス科に特徴的な形態をしています。

1)2本鎖DNAゲノム
2)162個のカプソメア(中空六角柱および五角柱状)で構成されるカプシド
3)宿主の膜構造由来のエンベロープを有する
4)カプシドとエンベロープの間にテグメントを有する

CMV EM

 なお、ビリオン (virion) とは、細胞外におけるウイルスの状態で、完全な粒子構造を持ち、 感染性を有するウイルス粒子のことです。

ウイルスと動物の多様性

 前項でヒトサイトメガロウイルス(HCMV)がヒトに対する病原性等を研究するのに、マウスサイトメガロウイルス(MCMV)とマウスの感染系をモデル実験系として扱うことを書きました。

 確かにヒトとマウスは哺乳類の分類系統で近く、感染実験において系統が近い動物を研究に用いる事は意味があることかもしれません。

 イルカ(クジラ)の病気の研究では、実験に同じ鯨偶蹄目であるブタを用いるようです(獣医学科の先生より)。

 インフルエンザウイルスはもともとアヒル・カモなど野鳥(野禽)のウイルスです、それがニワトリなどの家禽、ブタなどの家畜を介してヒトの世界に広がりました。インフルエンザウイルスのように大きく感染動物種を変えたものもいます。

 ウイルスには自然宿主(本来感染する生物)がいます。ウイルスが自然宿主から種の壁を超えるのは一見大変のようです。ただ、遺伝子変異はある確率で起っています。偶然性をもって種の壁を越える遺伝子変異が成立するようです。そのウイルス変異はひょっとしたら動物種の多様性にも関与しているのかもしれません。

CMV研究は共同研究

 human herpesvirus 5 いわゆるヒトサイトメガロウイルス(human cytomegalovirus: HCMV)はヒトのみが宿主です。病態などの研究において HCMVの感染実験に使える実験動物がいません。

 結局、マウスサイトメガロウイルス(murine cytomegalovirus: MCMV)とマウスの感染系などを、HCMVとヒトとの感染系のモデル実験系として利用しています。

 しかし、HCMVとMCMVでは様々な点が異なります。例えば・・・
1) HCMVとMCMVではゲノム構造が異なる。
2) HCMVは経胎盤感染するが、MCMVは経胎盤感染しない。
3) HCMVは抗アルファヘルペスウイルス薬のアシクロビル、バラシクロビルに非感受性だが、MCMVは感受性がある(MCMVはアシクロビル、バラシクロビルで増殖が抑制される)。

 ヒトにのみ感染するHCMVの病原性の研究は、感染者・感染症患者を研究対象にする必要があります。そのためにも基礎研究(ウイルス学)と臨床研究との共同研究が不可欠です。

ヒトとネズミの親類関係

『哺乳類はネズミ(マウス)のような動物からヒトへと進化した。』と聞く事があります。
このような話を聞くと、ネズミとヒトは哺乳類の中では随分違う動物のように感じてしまいます。

しかし、哺乳類の系統分類からいえば、ヒトとネズミは親戚のような関係です。

 哺乳類の系統分類で、哺乳類ー真獣下鋼ー北方真獣類ー真主齧上目 まで分類していくと、それから先は図のようになります。

サルの分類

 ヒトが属するサル目ー真主獣大目とネズミが属する齧歯目ーグリレス大目とはお隣さんなのです。
 哺乳類はヒトへと進化してきたというより、多様化した結果ヒトが存在すると考えるべきなのでしょう。

マスクの裏表

 インフルエンザ予防として不織布マスクの着用が勧められています。でも、コンビニや通販サイトで紹介されているマスクの絵・写真をみたら、違和感が・・・

item_0000012949_2.jpg

 ↑この写真は表と裏を間違えて装着してます。プリーツ(ひだ)の向きが逆なのです。

マスク

↑製品袋でもプリーツの向きが逆になってました。

 正しい説明は業務用マスクのマザーズさんの、『マスクのことはおまかせなサイト!!』を見てください。ゴミがたまらないようにプリーツを下向きに着用するのが正解です。

カープ コイ

 日南は飫肥藩5万1千石の城下町でした。観光協会は飫肥城下町の水路に錦鯉を放って、観光客を楽しませていました。(飫肥城下町ー日南市観光協会

 しかし、昨年9月に水路の鯉にコイヘルペスウイルス(koi herpesvirus) 病が見つかったため、今は水路に錦鯉はいません。

 さて、日南には2月にはもうひとつのコイがやってきます。プロ野球セリーグの広島東洋カープの春期キャンプのことです(広島東洋カープ 公式サイト)。
 2月13日にはWBC日本代表の山本浩二監督がカープのキャンプを視察していました。
# 近くのキャンプ地にはライオン(埼玉西武ライオンズ)もいます。

 ところで、コイヘルペスウイルスであって、カープヘルペスウイルスとは言いません。英語で Carp と Koi の違いは何でしょうか。
 Carp は一般的なコイ、Koi は錦鯉のことです。
 錦鯉は日本の国魚で、そのまま英語で Koi になっています。

診察室

 病院ではしばしば臨床の仕事もしています。私が診療に使わせてもらっている部屋は第診察室です。

診察室5

 サイトメガロウイルスの正式名は human herpesvirus 5 。診察室のドアの番号のまでもイタリック体(斜め文字)になっているのは何かの繋がりでしょうかね。

ヘルペスウイルス亜科の特徴

アルファヘルペスウイルス亜科
 宿主域が比較的に広い
 培養細胞で速やかに増殖する
 主として感覚神経節に潜伏する

ベータヘルペスウイルス亜科
 宿主域が狭い
 比較的長い増殖サイクルをもつ。
 リンパ球、単球・マクロファージ系細胞、腺細胞などに潜伏感染する。

ガンマヘルペスウイルス亜科
 宿主域が狭い
 リンパ球に感染し、感染細胞を不死化(がん化)させる
 リンパ組織に潜伏感染する。

 サイトメガロウイルス (CMV) はベータヘルペスウイルス亜科に属し、主に単球・マクロファージ系細胞に潜伏感染します。単球・マクロファージ系細胞は全身に分布しています。CMV感染症は局所感染症に限らず全身感染症として理解しておく必要があります。

ヒトヘルペスウイルスのゲノム構造と亜科分類

 ヒトヘルペスウイルスには8種類が知られています。
 それらをゲノム構造のみで比較してみると、サイトメガロウイルス (CMV) は単純ヘルペスウイルス (HSV) 1型および2型と似ています。
 しかし、ヒトへの病原性などの生物学的性状はCMVとHSVではかなり異なります。また、CMVであっても、ヒトCMVとマウスCMVのゲノム構造は全く違います。

HHVのゲノム構造

 ヒトヘルペスウイルス (human herpesvirus : HHV) による感染(症) を理解する上では、ゲノム構造よりも各ウイルスの物理的・生物学的性状を考慮した亜科分類で考えた方が良いです。

1)アルファヘルペスウイルス亜科
    単純ヘルペスウイルス1型(HHV-1)
    単純ヘルペスウイルス2型(HHV-2)
    水痘・帯状疱疹ウイルス(HHV-3)

2)ベータヘルペスウイルス亜科
    サイトメガロウイルス(HHV-5)
    human herpesvirus 6(HHV-6)
    human herpesvirus 7(HHV-7)

3)ガンマヘルペスウイルス亜科
    Epstein-Barr ウイルス(HHV-4)
    human herpesvirus 8(HHV-8)

分担研究

 厚生労働省科学研究費補助金の基盤研究事業として、先天性サイトメガロウイルス (CMV) 感染症の研究の成果を公開しています。本研究所も分担研究施設として参加しています。

CCMV logo

アドレスは http://www.med.kobe-u.ac.jp/cmv/ です。

感染力が強いウイルス

 いきなり問題です。下記の動物で他の仲間から最も外れているのはどれ?
ラクダ、ブタ、キリン、シカ、ヒツジ、カバ、ウマ、イルカ

 見た目ではイルカとなるのでしょうが、正解はウマです。ウマは奇蹄目、他の動物は鯨偶蹄目に入ります。ゲノム解析によりイルカはカバに近いことが判明しています。

 さて、2010年宮崎県で口蹄疫の流行が発生しました。口蹄疫は偶蹄類、特に畜産動物であるウシ、ブタが罹患します。口腔内や蹄 (ひづめ) の付け根に水疱ができることから「口蹄疫」の病名が付いています。
 罹患した家畜の乳収量や産肉量は低下するため、畜産業は大きなダメージを受けます。口蹄疫による宮崎県関連産業の損失は2010年だけで2400億円弱と試算されました。

 口蹄疫ウイルスは感染力が非常に強いウイルスです。ウシには少ないウイルス量 (10個程度 ) で感染が成立します。口蹄疫が畜産地域で広がれば、その抑え込みには大変な労力が必要です。したがって、流行発生の初期にいかに対策をとれるか、また日頃から「口蹄疫」という疾患を意識できているかが重要です。

 口蹄疫ウイルスと同様に感染力が非常に強いヒトウイルスにノロウイルスがあります。ノロウイルスも10〜100個と少ないウイルス量でヒトが罹患することがあります。

 昨年末、地元日南市の病院でノロウイルスの集団感染がありました(宮崎日日新聞記事)。その後も横浜の病院など各地でノロウイルスの集団感染が発生しています。
 流行性疾患が施設内で発生した時の感染予防対策は大事です。しかし、まずは日常的に「疾患を意識しておく」ことが最重要だと考えます。

初めてサイトメガロウイルス検査を担当した時(2)

 杉本裕弥君は2月10日頃までにはサイトメガロウイルス (CMV) 肺炎の危機を乗り越え、3月末には一時的に一般病棟に移ることができました。

Yuya Sugimoto

 6月になると京都大学と信州大学で国内2、3、4例目の生体肝移植が開始されました。

 その後も定期的に裕弥君のCMV検査を実施していて、CMV感染症の再発を認めることはありませんでした。しかし、杉本裕弥君の状態がだんだん悪くなっているであろうことは検体の状態から予想できました。

 1990年8月24日 (術後285日目) 移植片拒絶反応等による多臓器不全で杉本裕弥君は亡くなりました。

 残念でたまりませんでした。でも、もし1月の時点でCMV肺炎が原因で裕弥君が亡くなっていたら、2例目、3例目と続く生体肝移植は実施されなかっただろう。迅速で的確なCMV感染症診断とCMV発症予防法の確立が必要なのだと考えることにしました。

 私のCMV感染症の臨床ウイルス学的研究はこのようにして始まりました。

初めてサイトメガロウイルス検査を担当した時(1)

 1990年当時、宮崎医科大学(現:宮崎大学医学部)微生物学講座の南嶋洋一教授の下でサイトメガロウイルス (CMV)の迅速診断法の研究を行っていました。

 1990年1月30日の午後に南嶋教授から『島根医科大学から空輸で検体が送られてくるので、大至急でCMV検査の準備をしておくように。』と命じられました。

 患者さんの名前は杉本裕弥君。前年 (1989年) 11月13日に先天性胆道閉鎖症のため、日本で最初の生体肝移植を受けた満1歳の男の子です。
 1月20日頃から次第に呼吸状態が悪くなっており、CMV感染症 (CMV肺炎) が疑われるということで、島根医大第二外科(当時)の永末直文先生からCMV検査の依頼がありました。これが私にとって最初の臨床検体を用いたCMV診断となりました。

 宮崎空港に検体が到着して3時間後にはCMV抗原陽性細胞を検出できました。また、検体上清からCMVの分離陽性も確認できました。南嶋先生はすぐに永末先生に結果を報告し、裕弥君への抗CMV薬のガンシクロビル(当時未承認薬)投与が開始されました。

CMV infected cells

CMV細胞質内封入体の特徴:抗体反応での注意点

 サイトメガロウイルス(CMV)感染細胞に細胞質内封入体を観察できることがあります(過去記事あり CMV感染細胞の封入体図)。細胞質内封入体ではCMVタンパクが合成されていますが、その中に IgGのFc受容体機能を示すものがあります。

 抗体の構造については、「免疫を詳しく見る|バイオのはなし|中外製薬」を参照してください。IgG抗体はFabとFcの部位から構成され、Fabで抗原と結合し、Fcで白血球等に結合します。

 CMVの細胞内封入体にはIgGのFc受容体が存在するようになります。したがって、本来の抗CMV抗体とは無関係なIgGが非特異的に結合し、偽陽性反応性が生ずることがあります。

Fc receptor

 標識抗体を用いる抗CMV抗体価の測定においては、このような非特異的反応が起こりうることを留意しておかねばなりません。そのためにも、抗体が標的とするCMV抗原の特定は非常に重要です。

今の研究所

 レインボーの写真(http://aisenkaicdc.blog.fc2.com/blog-entry-8.html )の右側に旧研究所が写っていました。

 『今はどんなとこ?』と問い合わせがあったので現在の施設の外観をアップします。

AisenkaiCDC.jpg

ウイルスと宿主の関係は寄生なのか(2)?

 細胞変性効果(CPE)に細胞融合(合胞体化)があります(http://aisenkaicdc.blog.fc2.com/blog-entry-4.html)。
ヒトの体で細胞融合しながら合胞体を形成する組織があり、そのひとつが胎盤です。

 胎盤は母親から胎児に栄養分や酸素を送る組織です。でも、母親の血液と胎児の血液は混ざりません。もし、両者の血液が混じると、母親の生体防御反応によって胎児は傷害されてしまいます。母親の免疫担当細胞を胎児側に侵入させることなく、栄養分を通過させる細胞が胎盤には必要です。この役割を担うのが胎盤の合胞体栄養膜細胞です。

 合胞体栄養膜細胞における細胞融合にはウイルス由来の遺伝子が関与することが判明しています。つまり、哺乳類はウイルス遺伝子を獲得したことで、胎児を子宮で育てることができるわけです。
 哺乳類に限らず、脊椎動物はウイルスの遺伝子を取り込みながら多様化してきました。宿主とウイルス粒子の関係は寄生でも、ウイルス遺伝子とは相利共生の関係が成立しうるといえます。

 さらに詳しいことを知りたい方は、内在性レトロウイルス(Endogenous Retrovirus : ERV)を調べてみてください。

ウイルスと宿主の関係は寄生なのか(1)?

 ウイルスに感染した細胞の成り行きは、がん化するか、細胞死がおこるかのいずれかだと書きました(生か、死か、それが問題だ)。

 異種の生物が同一環境内で生存(共存)している状態を共生といい、3つのパターンがあります。

1)相利共生:共存にすることで、お互いに利益を得る場合(ヒト乳酸菌など)
2)片利共生:片方は利益を得るが、他方は利益も不利益もない場合
3)寄生  :他方の犠牲の上で他方が利益を得て生存する場合

 『ウイルス感染細胞はがん化していくか、死んでいくかのどちらか。』と言い切ればウイルスと細胞の関係は寄生です。実際、ほとんどのウイルスは宿主の細胞に寄生してるといえるでしょう。

 とはいえ、生は偶然です。次回はウイルス遺伝子の獲得で起こったことをご紹介します。

レインボー

 数日前に職場から虹を見ました。ちなみに右側の建物は旧研究所です。

Rainbow.jpg

 普段、太陽光は明るいか暗いかを意識するにすぎません。でも、太陽光の鮮やかなグラデーションは気分を晴れやかにしてくれました。

生か、死か、それが問題だ

 To be, or not to be: that is the question.
 シェークスピア作ハムレットの一節です。

 昨日(2月4日)の記事に『細胞変性効果(CPE)を呈した細胞は死んで行く』と書きました。ウイルスに感染した細胞の運命は『生か、死か』なのです。

ウイルス-宿主関係

 なんらかのきっかけでウイルスが細胞に感染できたとします。
 その感染細胞の運命は腫瘍化して生きていくか、ウイルス粒子を産生して死んでいくか。あるいは自分の生体防御反応によってウイルス感染細胞として破壊されて死ぬかです。

 とはいえ、がん化して腫瘍細胞として生き残ったとしても、宿主が死んでしまえば、結局はその腫瘍細胞もろともウイルスは死んでしまいます。

 生は偶然、死は必然・・・ウイルスにも当てはまる言葉です。

ウイルスか? ウィルスか?

 しばしばウィルスと記された記事を見かけます。しかし、医学的に、学術的にはウイルスと表記するのが正解です。イを小文字にしません。
 『日本ウイルス学会』 においてイは小文字ではありません。

 ウイルスの欧米名は "virus" です。
 英語では "ヴァイラス"、ドイツ語では "ヴィールス” と発音します。ラテン語圏では "ウィールシュ" と発音します?!(私の耳ではそう聞こえてました。)
 日本医学はドイツ医学の影響も受けており、また以前は日本医学会で『ビールス』を用いていたためか、今も『ビールス』と発音する方が多いようです。

 さて、『ウイルス』ですけど、この読み方は日本だけで通じると思った方が良いです。海外で "ウイルス" と言っても、全く通じません。英語読みの "ヴァイラス" と発音した方がドイツやラテン語圏でも理解してもらえました。

 ちなみに中国語では『病毒』と書きます(日本細菌学会でも病毒と表記していた時代がありました)。表意文字で『病毒』と書かれると、ウイルス感染症のイメージが伝わってきます。

CMV感染細胞の封入体

 細胞変性効果 (CPE) は感染細胞を染色しなくても観察できます。ではサイトメガロウイルス(CMV)感染細胞を染色してみたら、どのようにみえるのでしょうか。
 下図は CMV 感染細胞をヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)したものです。(通常、ヘマトキシリンは塩基性色素で核やリボソームが密集した部位、エオジンは酸性色素で細胞質がよく染まります。)

Inclusion Body

 周囲とは染色性が異なっている部分があり、この部位を封入体と言います。
 ヒトヘルペスウイルスの感染細胞は核内に封入体が観察されますが、CMV 感染細胞には核内だけではなく、細胞質にも封入体が認められるのが特徴です。

CMVの細胞変性効果(CPE)

 ウイルスが細胞に感染して増殖すると、感染細胞は円形化したり、細胞融合したり(合胞体化)します。このウイルス増殖に伴う細胞形態の変化を細胞変性効果(cytopathic effect : CPE)といい、光学顕微鏡下で染色することなく容易に観察できます。
 ヒト線維芽細胞にサイトメガロウイルス(CMV)を接種して数日から数週間するとCPE が観察されます。CMV の CPE は特徴的で、円形化、膨化(巨大化)した感染細胞が集簇的に見れます。CPEを呈した細胞は死んで行きます。

CMV CPE

 (抗原や核酸検出による診断確定が必要ですが)CPE が観察されるということは、生きたCMVを分離培養できたことになり、診断的価値は非常に高いです。
 しかし、CMVの CPEの出現を確認するまでに数日~数週間の細胞培養が必要です。CMV感染症の迅速診断には CPE の観察を指標にした CMV の分離培養は適しません。

サイトメガロウイルス(CMV)の名前の由来

 サイトメガロウイルス(cytomegalovirus : CMV)はヘルペスウイルス科のウイルスで、正式な学名は human herpesvirus 5 (HHV-5) です。
 サイトメガロウイルスの名前はギリシャ語の ”cyto- 細胞" "-megalo- 巨大な" の意味から付けられました。感染細胞が巨大化するからです。

 実際にCMVを感染させた細胞を免疫染色してみると(ウイルス抗原を有している細胞は褐色になってます)、最初に感染した細胞が巨大化し、周りの細胞にウイルスが広がりつつあるのがわかります。

CMV infected cells

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