2017-11

啓発の方法は?

 明けましておめでとうございます。

 来週、行政視点での母子感染対策の講演依頼を承っています。

そこで、某政令指定都市における昨年度の母子手帳交付状況を調べてみました。

妊娠週数と母子手帳の届け出時期の内訳
11週以内 92.3%
12〜19週 6.1%
20〜27週 0.9%
28週以降 0.5%
出産後 0.08%
 
 7%強が妊娠12週以降の母子手帳交付です。
 母子手帳を使った母子感染対策では、12週以前の胎芽期(胎児の臓器が形成される時期、母子感染の影響を受けやすい時期)の啓発が1割弱の妊婦様に対しては困難だとなります。

 となると、妊娠前の啓発も不可欠ということです。

 どの時点でのどんな啓発が効果的なのでしょうか。
 学校教育の時?(私見として、学校では母子感染よりも、まずは生命尊厳を学んで欲しいと思います。)

 議論する点はたくさんありそうです。

検査に関して

 先天性感染症検査に関してご連絡です。

 今までは妊婦さん個人からの問い合わせにも応じておりました。しかし、問題点も浮かび上がってきています。

1 検体採取することは医療行為であり、医療施設の協力がないとできないこと。
2 医療的な情報が少なく、こちらで状況がつかめない場合があること。
3 検査が必要か否かの判断は、本来、臨床医が行うべきこと。
4 説明後の妊婦さんの意思の確認が難しいことがある場合があること。

 などなどです。

 検査等についてのご質問やご希望については、医師を通じてご相談くださればありがたいと考えています。

検査のジレンマ

 久しぶりの更新です。思うことがあり、少し更新を止めていました。

 サイトメガロウイルスIgG抗体 Avidity Index を測定させていただいた妊婦さん。妊婦健診に来られないと心配していたら、いつの間にか他の産科施設で人工流産術をされていたとの連絡がありました。(他にさまざまな理由があったのかもしれませんが…。)

 Avidity Index は被験者(妊婦さん)が病原体に初感染か否かを評価する手段です。すなわち、胎児への感染確率の推測にAvidity Index 検査は使えます。でも、胎児が感染したか否かを調べる検査ではないのです。(胎児が感染したか否かを知るには、羊水等の胎児検体が必要となります。)

 私に検査を依頼される妊婦様にお願いがあります。
 新しい検査法等は胎児・新生児への早期診断・治療に役立てることを目標として研究を進めてきました。人工流産への選択を増やすために実施しているわけではないことをご承知おきください。

 妊婦さんに対しては、きちんとした検査情報の提供ができる産科医療体制の確立が急務だと思われました。

母子感染症の班会議

 12月5日に東京大学医学部附属病院において、厚生労働科学研究補助金『母子感染の実態調査把握及び検査•治療に関する研究』(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)の班会議が行われ、参加してきました。

 本格的な研究に向けて、準備や方法の確認を行いました。
 妊婦さんへのコンサルトの問題等、まだまだ課題が山積していますが、ともかく研究を進めなければなりません。

厚労省班会議

母体の風疹ウイルスの感染時期と児の症状出現頻度

 THE LANCET という科学雑誌に風疹についてJE Banatvala らがセミナーをしています。
( Lancet, vol 363 Issue 9415, 2004年,pp1127-1137)

 母体の風疹ウイルスの感染時期と先天性風疹症候群の発生頻度について記されていますので、日本語にしてみました。

風疹症候群感染時期
↑ クリックで少し拡大

 やはり、風疹ウイルスは妊娠週数が早い時の感染ほど、児に影響を与えることがわかります(妊娠5ヶ月まで)。

 妊娠8週までの感染なら、先天性心疾患、難聴、白内障の三徴候がそろいやすく、妊娠13週以降でも難聴となる可能性があります。
 妊娠20週を過ぎた後では、母体が風疹ウイルスに感染しても児への影響は少なくなっています。

MRワクチン

 先週末から MR (麻しん・風しん)ワクチンの流通制限が解除されました。
 本院でもワクチンの十分量の確保ができそうです。

 日南市では昭和48年4月2日生まれから平成2年4月1日生まれの方に対するワクチン代金の半額助成が来年3月31日まで延長されました。

 男性の方も積極的にワクチンを接種してくださればと思います。

風しん抗体価測定とワクチン接種推奨

 職場の全職員の風しん抗体価を調べてみました(前回の記事参照)
以下、気がついた事です。

1 34歳以上の男性に抗体陰性者が多い
2 25歳〜34歳の女性に抗体陰性者および抗体価低値の人が多い
3 新人さん(23歳未満)の方の多くは高力価の抗体がある

 以前、風しんワクチンの接種状況についての記事を掲載しましたが、ほぼ予想したような結果となりました。

 さて、これまでMRワクチン(麻しん・風しんワクチン)が1週間に1〜2本しか入荷していませんでした。しかし、昨日からMRワクチンの流通制限が解除されました。

今後は
1 妊娠可能(希望する)年齢層の女子で抗体陰性者および抗体価低値の方
2 1の方の配偶者および家族
3 妊娠は希望していないが女性職員および家族
4 上記と関係なくても高抗体価以外の方

 十分なワクチンが確保できるまでは、このような順位付けでワクチン接種を推奨して行く予定です。

風しん抗体価測定

 首都圏をはじめ、都市部での風しんの流行が問題になっています。風しんウイルスは先天性感染症の原因となるウイルスです。

 現在、風しんのワクチン(実際にはMRワクチン)が週に1〜2本しか入荷していません。でも、幸いなことに、宮崎県では風しんの流行が見られていません。

 数少ないワクチンを有効に活かすため、また今後起こるかもしれない地域流行に備えて、職場の全職員を対象として抗風しんウイルスIgG抗体価を測定することにしました。

風疹IgGキット

風しんウイルスー胎児検体の検査の時期

 最近、先天性風しん症候群に関するウイルスの検査の依頼が増えてきました。現在の風しんの流行の影響を感じています。

  先日、サイトメガロウイルス(CMV)の羊水検査時期を記載したところ、『風しんウイルスではどうなの?』とのご質問をいただきました。

 そこで、風しんウイルスの感染動態を簡単に作図しました。

風しんウイルス胎児感染

 風しんウイルスが母体に感染してから、母体がウイルス血症になるまで1週間、母体に発疹等の典型的な症状が出現するまで2週間かかります。母体が発症した時点では、まだ胎盤絨毛に風しんウイルス核酸は検出されません。
 胎盤絨毛に風しんウイルス核酸が検出されるようになるのは、母体の感染から3週間以上経ってから、母体の発症(発疹出現)から約10日後です。
 さらに、胎児の各組織で風しんウイルス核酸が検出されるのは母体の感染から40日後、母体の発症から約4週間後です。

 私の経験や海外文献からは、母体の感染から6週間以降(発症から4週間以降)に羊水を採取し、それを検体とした感度は約90%くらいです。しかし、母体の発症から早期に羊水検査を実施すると、ウイルス検出率は低くなります。
 日本での研究において、羊水の感度はそれほど高くないと言われることがあります。ひょっとしたら、日本では早期に羊水検査を実施する傾向があるのかもしれません。

 なお、先天性風しん症候群の検査において、海外文献で推奨される羊水検体の検査時期は、
母体の風しん発症から・・・
  少なくとも8週間後、かつ妊娠15週以降
  必要であれば、妊娠22〜23週に再検査

となっています。

 風しんに罹患した妊婦さんおよび医療関係者は、胎児が感染しているかをすぐにでも知りたいことでしょう。しかし、(母体保護法を考慮したうえで)検査に適した時期まで、あるいは検査として待てる時期まで待ってください。

検査する立場側からのお願いでした。

風しんの経過

 全国に流行が拡大しつつある風しん。その予防対策としてワクチンの接種が推奨されています。

 風しんウイルスが感染してから、体内で起こる状態を図にまとめてみました。

 感染してから約1週間でウイルス血症となり、2〜3週間後に発熱や発疹等の特徴的な症状が出現します。リンパ節腫脹は発疹出現の1週間ほど前から認められます。耳介後部や頸部のリンパ節の腫脹が目立ちます。

風しんの経過

 さて、問題にしたいのは風しんウイルスの排出時期のことです。

 風しんウイルスは飛沫感染しますので、咽頭からウイルスが排出される時期は感染源となります。咽頭からウイルス排出が開始される時期は、ウイルス血症になる時期とほぼ同じです。

 図から分かるように、風しんの特徴である発疹が出現する1週間ほど前から、すでにウイルスは排出されているのです。しかも、この時期の感染者はまだ発熱しておらず、行動制限を認めません。

 すなわち、発疹が出現した患者さんを隔離したとしても、感染源対策としてはすでに手遅れで、風しんウイルスの感染対策にはならないのです。

 発症防止(ウイルス血症防止)を目的として、風しんワクチン接種が重要視されるのは、このような理由からです。

風しん予防接種でのジレンマ

 風しん流行において男性への予防接種策の重要性は言うまでもありません。事実、現在の流行で罹患患者の多くは男性です。

 しかし、現在、風しん(単独)ワクチンは、メーカーからほとんど入手できない状態になっています(入荷未定です)。MR(麻しん・風しん)ワクチンはまだ入手できていますが、次第に入手困難になってきています。

 なので妊娠可能な女性を優先接種で考えねばならず、そのご主人・ご家族には接種できないジレンマを感じています。

 先天性風疹症候群対策のためにも、最低でも妊娠を考えている女性にはワクチンが行き渡るように生産・流通確保をして欲しいものです。

先天性風しん症候群対策で考慮すべき年齢

1) 昭和37年4月1日以前に出生した男女は風疹ワクチンの集団接種を行っていません。

2) 昭和37年4月2日から昭和54年4月1日生まれの男性は集団接種を行っていません。(女子は中学生の時に集団接種していました。)

3) 昭和54年4月2日から昭和62年10月1日生まれの男女は個別接種となり、医療機関での接種となったため、この期間は男女ともに接種率が激減しています。この世代(25歳〜34歳)の女性は特に要注意です。しかもこの世代は妊娠可能な女性が多く含まれる世代です。

4) 昭和62年10月2日から平成2年4月1日生まれの男女は幼児期に接種する機会がありました。しかし、1回のみ接種だったので抗体値が低値で十分な感染予防効果が認められない方がいます。

5) 平成25年3月末までの5年間は中学1年生と高校3年生相当年令の生徒に無料で風疹ワクチンを接種する制度がありました。しかし、特に高校生の接種率が高くありませんでした。19歳から23歳までの方で風疹抗体価が低値の方が残ってしまったと考えられます。

風しんワクチン接種状況


先天性風疹症候群の診断で

 当研究所宛に風疹ウイルス核酸検査の依頼が増えてきました。

  風疹で問題になるのは先天性感染症(TORCH 症候群)なのですが、商用検査メーカーは胎児検体での診断を行っていません。

 全国の2次相談窓口の産科・周産期センターからなら国立感染症研究所において、風疹核酸診断が実施できているようですが、それ以外の施設からの検査依頼は難しいようです。(検査数が多いと検査精度が落ちるのを懸念してのことだと思われます)。
  現在、産婦人科学会/国立感染症研究所から公表されている風疹2次相談医療施設は全国で15施設しかありません。

  2004年に風疹が流行した後も、先天性風疹症候群に関して医療・検査施設の整備が遅れていたのが、胎児診断を困難にしている原因のひとつかと思います。

 でも、先天性感染症の診断を希望する妊婦さんや医療施設はたくさんあります。妊婦さんがわざわざ二次相談窓口の病院まで診察に行くのも大変なことです。

 今後、倫理的配慮を考慮の上で一次・二次医療機関の見直しを行って、相談施設の整備を急いだ方がいいでしょう。

TORCH症候群

 先天性感染症の胎児は原因となる微生物の種類に限らず、流産、子宮内胎児発育遅延、胎児腹水、肝脾腫、黄疸、出血斑、小頭症、脳内石灰化、水頭症といった共通した症候を示すことが多いです。

 このような先天性感染症の症候を示す疾患については TORCH 症候群としてまとめられています。TORCH の由来となる病原体を並べると・・・
T:Toxoplasma godii(トキソプラズマ; 原虫)
O:Others(その他)
R:Rubella virus(風疹ウイルス)
C:Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)
H:Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス)

Others(その他)に含まれるものには
梅毒トレポネーマ、水痘・帯状疱疹ウイルス、Epstein-Barr ウイルス、パルボウイルスB19、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヘパドナウイルス(B型肝炎ウイルス)などがあります。

 一般的に Torch(トーチ)といえばたいまつ(松明)のことです。
 医学生の頃、たいまつで胎児が火あぶりされている状態(疾患)を想像させる図説を見せられていました。

 十数年前に私が学会・研究会等において先天性ウイルス感染症のマルチ診断法について発表したところ、『有効な治療法が確立していないのにどうするつもりなんだ。ガスリー法で判明する疾患とは訳が違う。これらの診断法を導入するのは時期早々だ。』との意見が厚生労働省関係者から出ました。
 しかし、まずは診断方法を確立し、産科・小児科医に情報提供をして、妊婦さんへ感染予防のための啓蒙を行うことが大事だったのではないでしょうか。

 数年前から厚生労働省から先天性感染症に関する科学研究費が出ています。また、最近は胎内感染・周産期感染にマスコミが注目するようになりました。以前から先天性感染症を診断してきた者にとっては、ここまで来たことに感慨深いです。

 先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会 「トーチの会」が立ち上がっています。未来の希望を照らすトーチとなりますよう期待しています

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