2017-07

風しんや伝染性紅斑(リンゴ病)で気をつけること

 風しんは別名『三日はしか』という言うくらいで、主な症状は3日ほどで消失していきます。ウイルスの排泄は発しんが消失すると急速に減少するため、発しんが消失するまで学校を出席停止とすることになっています。
(参考;http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1334054.htm

 でも、風しんウイルスの排出は感染者が発症する(発しん出現)時の1週間ほど前から始まっています。もしこの頃に感染者からウイルスが同居者らに伝播したとしたら、最初の感染者が治癒する頃に次の感染者がウイルスを排出する頃になります。すなわち、患者が治癒して学校・仕事に行きだした時は、保護者や同居者が最も注意すべき感染源となっているということです。

風しん経過

 同様の疾患として伝染性紅斑(リンゴ病)があります。伝染性紅斑の原因はパルボウイルスB19ですが、これに対するワクチンはなく、現在の成人の50~80%の方がパルボウイルスB19に対する免疫を持っていません。

 伝染性紅斑の患児の保護者や同居者は、患児が治った後、次は自分が感染源になっている可能性があります。医療関係者はこのことを患児(発病者)の保護者(同居者)によく説明しておくことが必要です。

伝染性紅斑経過

 『紅斑が出た後で全身状態が良くなれば、学校・仕事に行っていい。』というだけでなく、『その時には、家族が感染源となってるかもしれないので、マスク着用などの配慮をしてください。』 という旨を説明して欲しいと思います。

(図はクリックで拡大できます。)

インフルエンザ対策ポスター

 厚生労働省インフルエンザ対策の啓発ポスターにおいて、マメゾウくん&アズキちゃんの登場で 『まめにマスク、まめに手洗い』が合い言葉になりました。このポスターに『うがい』を推奨する言葉はありません。愛知県の健康づくり応援イメージキャラクター、エアフィーはうがいのキャラクターなのですが、愛知県のポスター標語にすら『うがい』の文字はありません。

インフル対策ポスター

インフル対策 愛知H25年



 インフルエンザの検査で綿棒を鼻腔に突っ込まれてウイルス抗原検査を行なった経験がある方も多いかと思います。すなわち、インフルエンザウイルスは主に鼻腔に感染しています。加えて、インフルエンザウイルスは鼻腔粘膜に吸着後、すばやく細胞の中に侵入します。

 普通のうがいで鼻腔の奥まで洗浄しているでしょうか? また、ウイルスが細胞に吸着してから細胞内に侵入しする前に、頻回に(約20分ごとに)うがいを行なえているでしょうか?

 『うがい』によって口腔内の細菌の希釈洗浄ができ、インフルエンザウイルスを活性化するプロテアーゼが減少するといった報告はあります。しかし、インフルエンザウイルスが感染するのは、口腔だけに限らず、うがい液が通常は到達しない鼻腔深部です。
 やはり、うがいよりも、手洗い・マスク・咳エチケットによる対策を実施した方が感染予防効果は高いようです。

 目くじらたてて、うがいを否定してるわけではありません。うがいを行なうと口腔内の細菌やプロテアーゼの希釈はできますし、喉の気持ちも良くなります。

 ただし、インフルエンザ対策として、手洗い・マスク・咳エチケットがより大切だということを、ポスターで感じてもらいたいと思います。

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/inful-poster25c.pdf

海の中のウイルス量(Nature総説から)

 2005年のNatureに掲載された "Review Viruses in the sea" という総説を読んでみました。
膨大な量のウイルスが地球上に存在していることがわかります。

 以下、総説の内容からです。
(なお、10^6 と記載してあるのは累乗を表しています。10^6 は 10の6乗(100万)という意味です。)

1) 海の中にウイルスは、深海で 300万個/mL 、沿岸部では 1億個/mL のウイルスが含まれると想定される。海水平均で 30億個/L のウイルスが含まれると仮定できる。

2) 地球上の海洋の容量は 1.3 x 10^21 L とされる。

3) 1)および2)より
海全体で 4 x 10^30 個のウイルスが含まれている。

4) ウイルス一個の大きさを 100 nm、含まれている炭素を 0.2 fg (フェトグラム、1fgは 1/10^15g; 1μgの10億分1)と仮定する。

5) 3) および 4) から
海全体のウイルスに含まれる炭素は 2億トン(シロナガスクジラ 7500万頭分)
ウイルスを全部一列につなげると 1000万光年の長さに達する。


インフルエンザウイルスが感染するための条件(鳥インフルエンザウイルスがヒトで流行しにくい理由)

 インフルエンザウイルスが宿主に感染するためには最低2つの条件が必要です。
 ひとつは前項・前々項で挙げました。インフルエンザウイルスが宿主の酵素によってヘマグルチニンが開裂して活性化することです。
 もうひとつはヘマグルチニンの開裂部位に対応するウイルスレセプター(受容体)が宿主細胞にあるか否かです。

インフル感染条件

 細胞におけるインフルエンザウイルスの受容体は細胞膜に存在する糖タンパク質のシアル酸です。(シアル酸とはノイラミン酸 (neuraminic acid) のアミノ基やヒドロキシ基が置換された物質を総称です。)

 ヒトインフルエンザウイルスのヘマグルチニンはガラクトースとα2-6結合したシアル酸と高い親和性を持っています。一方、鳥インフルエンザウイルスのヘマグルチニンはα2-3結合したシアル酸と結合します。
 ヒトの上気道にはα2-6結合シアル酸が存在しており、鳥の消化管にはα2-3結合シアル酸が存在しています。ヒトインフルエンザウイルスがヒトの上気道に感染するのは、ヒト型レセプターとのシアル酸結合様式が関与していることになります。

zu2a.gif


zu2b.gif

↑科学技術振興機構(JST) のホームページより


 これらシアル酸受容体の結合様式のため、鳥インフルエンザウイルスは容易にはヒトに感染しません。

 しかし、ヒトの下気道(肺)にはα2-3結合シアル酸が存在することが証明されています。
 よって、鳥インフルエンザウイルス感染源と濃厚な接触、例えばウイルスが下気道(肺)に直接到達するような接触があれば、ヒトが鳥インフルエンザウイルスに感染することがあり得る訳です。ただし、この場合にはヒトからヒトへの流行は起こりにくいです。

 今後、鳥インフルエンザウイルスにおいてα2-6結合(ヒト型)シアル酸への結合能が上昇するヘマグチニン遺伝子変異が起こる可能性があります。こちらの場合は、ヒトからヒトへの流行が起こり得ることも考慮すべきです。
 その時を想定した社会的な対応策の検討が急がれています。


ヒト型のインフルエンザウイルスは直接腸管症状を起こさない

 前項のタンパク分解酵素によるウイルスの活性化の話が分かりにくかったようです。説明図(出典が今となっては不明です。ごめんなさい。)があります。

Proteolytic activation

 インフルエンザウイルスの表面にはヘマグルチニン(hemagglutinin)があります。ヒトの細胞にウイルスが吸着するためには、ヘマグルチニンの内部にある融合ペプチド(図ではMembrane Fusion Domain となっています)が表出していなければなりません。

 そのためにはヘマグルチニンがヒトの酵素(図ではProtease; ハサミ)で開裂される必要があります。ヒトの酵素が働いて、融合ペプチドを表出したインフルエンザウイルスが感染性を持つことになるのです。

 前項では、開裂させられる酵素が体内のどこに分布しているかで、ウイルスの感染部位が決まっているという内容でした。

 インフルエンザ治療薬としてザナミビル(リレンザ)、ラニナビル(イナビル)といった吸入薬が使えるのは、流行しているインフンルエンザウイルス(ヒト型)が気道の酵素で活性化し、他の臓器に存在する酵素では活性化しないためです。
 ということで、少なくとも現在までに流行したインフルエンザウイルスは腸管で増殖することはありません。

 『今年のインフルエンザはお腹にくるからねぇ。』と言われるのをしばしば耳にします。本当はインフルエンザウイルスの直接的な影響によって消化器症状は起こっていないのです。

いわゆる弱毒株のインフルエンザウイルスと強毒株の麻しんウイルス

 インフルエンザウイルスはオルトミクソウイルス科に、麻しんウイルスはパラミクソウイルス科に属するウイルスです。異なるウイルス科に属していますが、感染において似ている部分があります。

 インフルエンザウイルスではヘマグルチニン(hemagglutinin : HA)、麻しんウイルスではFタンパクというタンパクがウイルスの表面にあります。
 これらのタンパクが宿主のタンパク分解酵素で開裂すると、ウイルスが活性型になり(細胞膜に融合するペプチド領域が出現する)、細胞に感染できるようになります。

 すなわち、インフルエンザウイルスや麻しんウイルスは、どこの組織に存在するタンパク分解酵素でタンパク開裂するか(活性化するか)で感染部位が決まってきます。

 鳥インフルエンザウイルス強毒株は全身感染します。この理由はヘマグルチンが普遍的な細胞に存在するタンパク分解酵素(フリン等)で開裂するからです。鳥インフルエンザウイルス強毒株は腸管でも増殖するため、鳥の糞が感染源となることもあります。

 現在までにヒトで流行しているインフルエンザウイルスはすべて気道で増殖するものでした。これはヘマグルチニンを開裂させる酵素(トリプシン様酵素)が気道のみに存在しているからです(鳥インフルエンザウイルスの分類に照らせば、ヒトインフルエンザウイルスは弱毒株にあたります)。

 麻しんウイルスやムンプスウイルスは、全身の種々の臓器に存在するタンパク分解酵素でFタンパクが開裂します。これらのウイルスが全身感染を起こすのは、全身の細胞にあるタンパク分解酵素がウイルスの活性化に関わっているからです。

開裂部位

ウイルス血症を起こすウイルス

 ウイルス血症を起こすウイルスは多々あります。しかし、ウイルスの存在部位が血球なのか血漿中(血清中)なのか、ウイルス毎にさまざまです。

 自分が検出を試みたウイルス等を挙げてみました。血液成分の何を調べたら、効率よくウイルスを検出できるかを表しています。

viremia.jpg


麻しんワクチン接種の目的は麻しん発症防止だけではない

 麻しんウイルスが原因とされる疾患に亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis ; SSPE) があります。SSPEは麻しんウイルス感染後、数年におよぶ長い潜伏期の後に発症し、数ヶ月から数年の経過で(亜急性に)脳炎が進行する、予後が極めて不良な疾患です。 

 SSPEは1歳未満で麻しんに罹患した場合や、免疫が低下した宿主に(ステロイドホルモン、免疫抑制剤、抗がん剤などを長期に使用しているような状態)発症が多いのが特徴です。また、男児に多く、多くが学童期に発症します。

 潜伏期間が非常に長く、遅発性感染症のひとつと考えられます。

 SSPEの原因となる麻しんウイルスは、ウイルスMタンパク質をコードするM遺伝子に変異が生じ、通常のMタンパク機能が欠失しています。

 SSPEの発症に麻疹ワクチンが関連しているという証拠は現時点でありません。それどころか、麻疹ワクチン接種率の上昇により、SSPEの発生率が減ってきています。
 事実、麻しんワクチン接種の普及により、自然麻しん患者が見られなくなった欧米諸国において、SSPEはほとんど報告されなくなりました。
  麻しんワクチンを接種して、Mタンパク(抗原)に対する免疫を確実に獲得することで、SSPEの発症を抑制することができるためと考える研究者もいます。

 麻しんワクチンは『麻しん』と『亜急性硬化性全脳炎 (SSPE)』の2つの疾病を予防するワクチンといえるでしょう。

伝染性ウイルス疾患の広がりやすさ

 疾病の流行しやすさの指標に、Basic Reproduction Number (R0) があります。
 『集団が免疫を獲得していないとして、一人の患者がいた場合に何人に伝播しうるか。』という研究上の想定数値です。

 ウイルス感染症を例にとってみると (下図) 、風しんウイルスはインフルエンザウイルスよりも3倍強も広がりやすい事がわかります。
 インフルエンザには治療薬があります。治療薬がない風しんでは予防接種が根幹対策です。

R0.jpg
クリックで拡大

 集団免疫からいえば麻しんに対する予防接種は最重要だといえます。

 MR(麻しん・風しん)ワクチンの接種をお勧めします!

ポリオは根絶できるのか?

 世界保健機構(WHO)が1988年にポリオ根絶計画を採択した時、痘瘡を根絶できたのだから、ポリオもすぐに根絶できるとの意見が大半を占めていました。
 しかし、ウイルス学関係者の中に『根絶までにはかなりの時間を要するであろう』と予想した研究者も多くいました。

 そもそも、痘瘡が根絶できた理由は、痘瘡ワクチンの効果が高かった上に、以下の条件がそろっていたからと考えられています。

1)痘瘡ウイルスはヒトのみに感染する。
2)感染したら必ず発症する。
3)急性感染(一過性感染)となり、持続感染しない。
4)痘瘡ウイルスの抗原性は単一である。

 では、ポリオの場合はどうかというと・・・
1)ポリオウイルスはヒトだけでなくチンパンジーなどの霊長類に感染する。実際、ポリオ不活化ワクチンの製造にはミドリザルの細胞が使用されている。
2)ポリオウイルスの顕性感染率は1%にも満たない。すなわち、ポリオ患者が1人いることは、その背景に100人以上の感染者が存在していると計算される。
3)ポリオウイルス野生株を長期排泄する持続感染例が確認されている。
4)ポリオウイルス遺伝子はRNAである。ポリオウイルスにおいて感染性や病原性を規定する遺伝子に変異が生ずる確率は痘瘡ウイルス(DNAウイルス)のそれと比べて格段に高い。

 このように、痘瘡ウイルスとポリオウイルスとでは、宿主域、感染・発症様式、遺伝子変異率に大きな違いがあります。なので、ポリオ根絶の困難さを予想した研究者も多かったわけです。

 痘瘡根絶宣言が出された翌年(1981年)、ポリオ生ワクチン開発者の Sabin 博士が日本でセミナーを行ないました。そこでポリオを最もよく知る Sabin 博士は『痘瘡(天然痘)は根絶されました。しかし、ポリオを根絶することは不可能です。ポリオという病気、ウイルスの性状、ワクチンの特徴を熟知したうえでの結論です。ただ、ポリオを制御することは可能でしょう。』と語りました。
 現時点で博士の予想は適中しており、まだポリオは根絶されていません。Sabin 博士の予想を覆せるのは何時になるでしょうか。その時が遠くないことを祈るしかありません。

ポリオ(急性灰白髄炎)

 痘瘡(天然痘)根絶の次に世界保健機構(WHO)が根絶に乗り出したのはポリオ(急性灰白髄炎)でした。
ポリオとはポリオウイルスの感染によって運動神経障害が起こり、弛緩性麻痺を生じる疾患です。呼吸に関わる神経が障害されると、自発呼吸ができなくなり重篤な症状を呈します。

 下の石碑は紀元前1500年ほど前のものです。中央の男性はポリオにより右足が麻痺・萎縮しています。子供(右端)が自分のような病気にならないように、神様にお供えをしている石碑だとされています。
ポリオ

 ポリオの根絶に関しては、WHOだけでなく、国際ロータリーなどの奉仕団体やユニセフも支援をしています。当初、WHOは西暦2000年のポリオ根絶を目指していました。しかし、戦争、教育、文化の問題もあり、根絶まであと少しの段階で足踏状態となっています。

ウイルスと動物の多様性

 前項でヒトサイトメガロウイルス(HCMV)がヒトに対する病原性等を研究するのに、マウスサイトメガロウイルス(MCMV)とマウスの感染系をモデル実験系として扱うことを書きました。

 確かにヒトとマウスは哺乳類の分類系統で近く、感染実験において系統が近い動物を研究に用いる事は意味があることかもしれません。

 イルカ(クジラ)の病気の研究では、実験に同じ鯨偶蹄目であるブタを用いるようです(獣医学科の先生より)。

 インフルエンザウイルスはもともとアヒル・カモなど野鳥(野禽)のウイルスです、それがニワトリなどの家禽、ブタなどの家畜を介してヒトの世界に広がりました。インフルエンザウイルスのように大きく感染動物種を変えたものもいます。

 ウイルスには自然宿主(本来感染する生物)がいます。ウイルスが自然宿主から種の壁を超えるのは一見大変のようです。ただ、遺伝子変異はある確率で起っています。偶然性をもって種の壁を越える遺伝子変異が成立するようです。そのウイルス変異はひょっとしたら動物種の多様性にも関与しているのかもしれません。

感染力が強いウイルス

 いきなり問題です。下記の動物で他の仲間から最も外れているのはどれ?
ラクダ、ブタ、キリン、シカ、ヒツジ、カバ、ウマ、イルカ

 見た目ではイルカとなるのでしょうが、正解はウマです。ウマは奇蹄目、他の動物は鯨偶蹄目に入ります。ゲノム解析によりイルカはカバに近いことが判明しています。

 さて、2010年宮崎県で口蹄疫の流行が発生しました。口蹄疫は偶蹄類、特に畜産動物であるウシ、ブタが罹患します。口腔内や蹄 (ひづめ) の付け根に水疱ができることから「口蹄疫」の病名が付いています。
 罹患した家畜の乳収量や産肉量は低下するため、畜産業は大きなダメージを受けます。口蹄疫による宮崎県関連産業の損失は2010年だけで2400億円弱と試算されました。

 口蹄疫ウイルスは感染力が非常に強いウイルスです。ウシには少ないウイルス量 (10個程度 ) で感染が成立します。口蹄疫が畜産地域で広がれば、その抑え込みには大変な労力が必要です。したがって、流行発生の初期にいかに対策をとれるか、また日頃から「口蹄疫」という疾患を意識できているかが重要です。

 口蹄疫ウイルスと同様に感染力が非常に強いヒトウイルスにノロウイルスがあります。ノロウイルスも10〜100個と少ないウイルス量でヒトが罹患することがあります。

 昨年末、地元日南市の病院でノロウイルスの集団感染がありました(宮崎日日新聞記事)。その後も横浜の病院など各地でノロウイルスの集団感染が発生しています。
 流行性疾患が施設内で発生した時の感染予防対策は大事です。しかし、まずは日常的に「疾患を意識しておく」ことが最重要だと考えます。

ウイルスと宿主の関係は寄生なのか(2)?

 細胞変性効果(CPE)に細胞融合(合胞体化)があります(http://aisenkaicdc.blog.fc2.com/blog-entry-4.html)。
ヒトの体で細胞融合しながら合胞体を形成する組織があり、そのひとつが胎盤です。

 胎盤は母親から胎児に栄養分や酸素を送る組織です。でも、母親の血液と胎児の血液は混ざりません。もし、両者の血液が混じると、母親の生体防御反応によって胎児は傷害されてしまいます。母親の免疫担当細胞を胎児側に侵入させることなく、栄養分を通過させる細胞が胎盤には必要です。この役割を担うのが胎盤の合胞体栄養膜細胞です。

 合胞体栄養膜細胞における細胞融合にはウイルス由来の遺伝子が関与することが判明しています。つまり、哺乳類はウイルス遺伝子を獲得したことで、胎児を子宮で育てることができるわけです。
 哺乳類に限らず、脊椎動物はウイルスの遺伝子を取り込みながら多様化してきました。宿主とウイルス粒子の関係は寄生でも、ウイルス遺伝子とは相利共生の関係が成立しうるといえます。

 さらに詳しいことを知りたい方は、内在性レトロウイルス(Endogenous Retrovirus : ERV)を調べてみてください。

ウイルスと宿主の関係は寄生なのか(1)?

 ウイルスに感染した細胞の成り行きは、がん化するか、細胞死がおこるかのいずれかだと書きました(生か、死か、それが問題だ)。

 異種の生物が同一環境内で生存(共存)している状態を共生といい、3つのパターンがあります。

1)相利共生:共存にすることで、お互いに利益を得る場合(ヒト乳酸菌など)
2)片利共生:片方は利益を得るが、他方は利益も不利益もない場合
3)寄生  :他方の犠牲の上で他方が利益を得て生存する場合

 『ウイルス感染細胞はがん化していくか、死んでいくかのどちらか。』と言い切ればウイルスと細胞の関係は寄生です。実際、ほとんどのウイルスは宿主の細胞に寄生してるといえるでしょう。

 とはいえ、生は偶然です。次回はウイルス遺伝子の獲得で起こったことをご紹介します。

生か、死か、それが問題だ

 To be, or not to be: that is the question.
 シェークスピア作ハムレットの一節です。

 昨日(2月4日)の記事に『細胞変性効果(CPE)を呈した細胞は死んで行く』と書きました。ウイルスに感染した細胞の運命は『生か、死か』なのです。

ウイルス-宿主関係

 なんらかのきっかけでウイルスが細胞に感染できたとします。
 その感染細胞の運命は腫瘍化して生きていくか、ウイルス粒子を産生して死んでいくか。あるいは自分の生体防御反応によってウイルス感染細胞として破壊されて死ぬかです。

 とはいえ、がん化して腫瘍細胞として生き残ったとしても、宿主が死んでしまえば、結局はその腫瘍細胞もろともウイルスは死んでしまいます。

 生は偶然、死は必然・・・ウイルスにも当てはまる言葉です。

ウイルスか? ウィルスか?

 しばしばウィルスと記された記事を見かけます。しかし、医学的に、学術的にはウイルスと表記するのが正解です。イを小文字にしません。
 『日本ウイルス学会』 においてイは小文字ではありません。

 ウイルスの欧米名は "virus" です。
 英語では "ヴァイラス"、ドイツ語では "ヴィールス” と発音します。ラテン語圏では "ウィールシュ" と発音します?!(私の耳ではそう聞こえてました。)
 日本医学はドイツ医学の影響も受けており、また以前は日本医学会で『ビールス』を用いていたためか、今も『ビールス』と発音する方が多いようです。

 さて、『ウイルス』ですけど、この読み方は日本だけで通じると思った方が良いです。海外で "ウイルス" と言っても、全く通じません。英語読みの "ヴァイラス" と発音した方がドイツやラテン語圏でも理解してもらえました。

 ちなみに中国語では『病毒』と書きます(日本細菌学会でも病毒と表記していた時代がありました)。表意文字で『病毒』と書かれると、ウイルス感染症のイメージが伝わってきます。

«  | ホーム |  »

プロフィール

アウルの目

Author:アウルの目
Author名の由来
峰松俊夫 (ウイルス学)
Facebook
愛泉会日南病院
厚労科研費研究
日本医療研究開発機構

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

CMV (31)
ヘルペスウイルス (5)
先天性感染症 (14)
トキソプラズマ (2)
微生物学 (22)
ウイルス (17)
病院/研究所 (8)
未分類 (14)
ワクチン (3)
備忘録 (1)
検査 (3)

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR